お直しを引き取りにいらっしゃった、お客様から言われた言葉で、とても印象に残っているのが「餅は餅屋ね〜」です。恥ずかしながら、その時まで、私はその言葉の意味を知らなかったのです。あとで調べてみると、餅は餅屋がついたものが一番うまい。その道のことは、専門家が一番である、というたとえだと知り、嬉しく思ったことを覚えています。これって褒め言葉の一つとして受け取っていいのかな?と。
私は洋服のお直しを生業としています。お客様からしたら、その道のプロと思って来ていただいています。お客様の洋服を直した後に、「直してもらって良かった〜、また着れる!」とか「新品になったみたい」とか「プロじゃないとできないね〜」というお言葉をいただくと、本当に直して良かったと思います。お客様の中には、私のことを「先生」と呼んで下さる方がいます。おそらく、洋服のクリニックの先生みたいなものかな?と勝手に思っています。確かに、ジーンズの破れを直す時や、ジャケットの肘が擦り切れたものは、洋服が怪我をしたようなものです。以前、ジャケットを旅行中のホテルのドアノブに引っ掛けて、ポケットが破れてしまったお客様がいました。保険請求をしたいので、お直しの見積もりをしてほしいという依頼もありました。自転車の車輪にスカートが絡まって破れたという方もいました。これはまさに、洋服の事故ですね。お客様からも、「重症ですかね?」とか「もう寿命かな?」と聞かれることもあります。ここはやはり、プロとして洋服を診断させていただき、適切なアドバイスをさせていただきます。お客様に納得していただけるような方法で、お直しをしています。
ただ、難しいのはその洋服が寿命かどうかの判断です。洋服にはそれぞれ思い出があるでしょうし、買った時の価格よりお直し価格が高くなってしまうかも?ということもあります。どんなに生地の痛みが激しい場合でも、洋服の余命宣告は出来ません。最後に判断するのは、やはり持ち主のお客様だと思います。
せっかく直して、仕上がった洋服がクローゼットの中で眠ってしまうのが一番残念です。常連のお客様が、次に来店された時に、以前直した洋服を着てこられた時が、餅屋で良かった〜、いやいや、お直し屋で良かったと思います。
出かけ先で、パンツやスカートの裾がほどけてしまった事、ありませんか?一時しのぎで、ご自分で対処されたものをいくつかご紹介します。
①安全ピンでとりあえずとめる。→太い安全ピンは穴が開きます。
②両面テープ、ガムテープを貼る。→剥がして縫い直す時、ベタベタになります。
③のり、ボンドでくっつける。→洗濯しても、のりがおちない場合があります。固くなって剥がす時に生地を痛めます。
④ホッチキスでガシャンととめる。→生地を痛めます。
⑤糸の色は合わないけれど、ざっくりと縫う。→かろうじてOK!
どれもあまり良くない方法ですが、とりあえず…という気持ちはわかります。②と③は特にお勧めできない対処法です。こんな時は、是非早めに洋服のお直し屋さんへ行って下さい。